大江戸妖怪物語
僕は顔面蒼白のまま、アズ姐の部屋へと上がる。
女性の部屋とは思えないほど、物のない部屋だった。
美容品も一切置いていない。
神門「アズ姐って美容品とかないのに、すっごい若いよね。僕と出会ったころに比べて、全然老けてないし」
小豆「あら、そう・・・」
アズ姐は少しばかり、顔に影を落とした。
やはり、女性に美容関係のことを言うのはまずかったのか・・・。
小豆「私、よく店を転々とするから・・・。あまり荷物が無いほうがいいかなって」
神門「でも甘深楽ってずっとあそこになかったっけ。僕が小さい時にはあったはずだし・・・。20年近くにはなってるんじゃない?転々としては無いんじゃないかな・・・?もしかして、親の店を継いだのかな?」
小豆「実は、私が話したいことなんだけどね」
アズ姐は見事に話題を変えて座布団を出し、その上に座った。
小豆「さっきの瓦版に書いてあった、大量怪死事件のことなんだけれど・・・。その犠牲者の一人に、この店の常連さんがいたの」
神門「常連さんが亡くなったんだ・・・」
小豆「さっきは疑ってはいけないといったわ。でも、それは他の常連さんもいたし・・・言えなかったけど。道行く人が怪しく見えてしまうの。そして犯人も許せない」
握り拳を太ももの上で作るアズ姐。よほど悔しいのが分かる。
小豆「本当に良い人だった。あんなに優しい人が、殺される理由なんてあるはずがない。通り魔的犯行だと私は認識しているわ」
神門「・・・アズ姐」
僕はこの後言う言葉を一瞬躊躇った。が、僕は口に出した。
神門「アズ姐、世の中恨みを持たれない人間なんていないんだよ」
アズ姐はハッとした表情で僕の顔を凝視する。何を言っているのか、という顔だった。