大江戸妖怪物語
泰山王「そういうことだねー」
泰山王は飄々としながら言う。
泰山王「これも邪鬼が関わっている可能性があるみたいだよー。閻魔が言ってたし。だからまあ頑張ってきてね」
そういうと泰山王は僕に向かってなにかを投げてきた。
神門「これは?」
泰山王「どんな傷も忽ち治っちゃう僕が作った最高峰の薬。『秘薬』っていう名前なんだ」
神門「そのまんまですね・・・」
泰山王「えー?何それ文句??そういうこというならあげないー」
神門「嘘です!すみませんでした」
巾着袋を上に投げながら泰山王は笑った。
泰山王「冗談だよー」
泰山王は木の上から飛び降りて僕に近寄った。泰山王は僕の耳に顔を近づけて言った。
泰山王「・・・今回はちょーっと相手が強めかもしれないから、気を付けてね。神門くんが死んだら苦しい顔見れなくなっちゃうから」
神門「えッ・・・」
これは脅しなのか、からかいなのか。それすらもわからない。ただ、唯一わかるのが泰山王がおやつの時間を今か今かと待っている子供のような目つきをしているということだけだ。
神門「マジですか・・・」
泰山王「そう。だから頑張ってねー」
泰山王は僕を一回抱きしめてから、ヒュッと姿を消した。それは一瞬の出来事であった。
雪華「・・・まあ、閻魔王様がいうのなら仕方ない」
雪華は観念したようにそういうと、道を歩き出した。少し進むと二又の道があり、僕らは迷わず右折した。
神門「それにしても、季節が変わるってそれほど重要なことなの?」
雪華「まあな。例えば、米を栽培することになるだろう?米は気温が低くなると病気になり枯れてしまう。もし、季節が安定せず、冬の季節が続いたら米は育たない。これはどの植物にも言えることだ。それぞれ種まきの時期があり、収穫する時期がある。その時期が狂ってしまえば飢饉になってしまうこともある」
神門「そんなに重要なんだね・・・」
しばらく歩いていくと、武蔵国生越と書かれた札があった。
雪華「どうやら、この村のようね」
神門「何て読むの?なまごえ・・・?」
僕らがその札を通り過ぎた時だった。僕の体中がとんでもない痛みのような感覚に襲われる。それが寒さによるものと気づくのに時間差を要した。
神門「・・・ッ!!寒ッ!!」
僕は慌てて引き返した。
神門「なに?!今の寒さ!」
しかし、生越の村を出ると、ジメジメした気候に戻っていた。
あの寒さは・・・?
僕は腕だけ生越に入れてみた。すると、腕だけがまるで氷室の中に入ったかのようにキンキンに冷える。
神門「やっぱりこれも、異常気象っていうやつなの??」
雪華「何をしている神門。さっさと行くぞ」
雪華は何食わぬ顔で話す。
神門「雪華、寒くないの?」
雪華「私は雪女だ。逆にこれくらいの気温が心地いい」
雪華は普通にしている。やはり、雪華は雪女なのだなと改めて思った。意を決し、札を通り過ぎる。しみこむような寒さが、着物の繊維の隙間から入ってくる。