大江戸妖怪物語
少しばかり、時間が止まった気がした。流れ出る源泉の音だけが耳に入ってくる。どこかにある獅子脅しがコンと心地いい音を鳴らした。
雪華「先ほどあったばかりの女に・・・お前は惚れたのか?」
何故だろう。雪華の声が震えている気がする。雪華は背を向けているため、顔を見ることはできない。
神門「・・・惚れてはないけど、心配なだけ」
僕は白い息を吐いた。
神門「あんな病弱な子が、変な組織に追われていて、心配にならないわけないじゃん」
雪華「・・・そうか」
雪華は再度正面を向き、白い息を吐き出した。
雪華は白い湯を肩に掛ける。その仕草がやたら色っぽく、僕は再度赤面する。
そして頭がボォーッとしてきた。逆上せてしまったのだろうか。
神門「ううぅ・・・クラクラする・・・」
僕は雪華の肩に頭を置いた。
雪華「何だ、殺されたいのか」
神門「ち、違うって!ちょっと安静にさせて・・・」
雪華「逆上せたなら風呂から上がればいいだろう」
神門「・・・上がる気力もない・・・」
雪華「・・・ふん、勝手にしてろ」
これでは、本当のカップルみたいだ。しかも一見するとイチャイチャしているバカップルみたいだ。これを口に出したら、永遠にこの露天風呂に屍として沈められることになるから言わないが・・・。
雪華「おい、お前が風呂から出ないと私が上がれないだろ」
数分後、雪華の口から愚痴が発せられた。
神門「なんで?」
雪華「女性が風呂から上がるには、様々な部位を隠す必要があるからな。だから、さっさと出やがれ。さもなくば、氷柱ブッ刺して気絶させてその間に風呂から上がる」
雪華なら本当にやりかねない。その言葉に、風呂に入っているにも関わらず、湯冷めしたように僕からサーッと血の気が引いた。
神門「ひいッ!!今すぐ出ます!!」
僕は自らの局部をタオルで巻き、一目散に脱衣所に向かった。その時、背後で雪華が風呂から上がる音がした。
(もしかして、今振り返れば雪華って・・・裸?)
そんな変な妄想をしていたら、鼻がツーンとしてきた。いかんいかん、このままだと鼻血が出る。そして、やはり僕は変態なんだなと、改めて実感するのであった。