桜花~君が為に~
名を呼ばれた悠輝は戸惑いながらもその姿を現した

「沖田さん…」
「話、聞いちゃったんだね」

静かに頷く
彼のようには笑えなかった

労咳といえば有名な死病で
かかってしまえばその先は知れている
それに若ければ若いほど
その病は体を蝕んでいくのだ

「どうしよっか
僕、死病なんだってさ」

沖田は自嘲を含んだ笑みを見せた
そんな彼を見るのがつらくて
悠輝は顔を伏せる

「……しが……」
「ん?」

ぽつりと呟いた悠輝の言葉が聞こえなかったのか
沖田は悠輝の顔を
下から覗き込むようにして見る

溢れそうになる涙を堪え
悠輝は顔を上げた




「沖田さんは、私が…殺すんです
だから…それまで、死なないでください」

殺すつもりなんてはなからなかった
それでも
この言葉が彼の生きる糧になるように
そんな思いを込めて
悠輝は言葉を発する
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