桜花~君が為に~
もう涙は出ない
出さない
これ以上彼に心配や迷惑をかけるわけにはいかない
一番辛いのは彼のはずだから
「これは、俺が望んでやっていることです
だから…そんなこと、言わないでください」
作った笑顔が引きつりそうになる
それでも悠輝は笑った
それにあわせるように
沖田も笑顔を作り
盆の上に置かれたままになっている粥の入った碗を手に取った
「食べるよ
悠輝がせっかく作ってきてくれたんだから」
肩をすくめる
それからようやく粥を口にした
いつの日か看病をした日のように
おいしいおいしいと言って
機嫌よく粥を食べる
そんな彼の様子を見た悠輝は安堵の息を漏らした
穏やかな時が流れる
外では掃除が再開したのか
あわただしく人が走り回る音が聞こえる
慶応元年 五月
暖かい春の日のことだった