桜花~君が為に~
元治元年 七月

池田屋の事件から
早くも一ヶ月がたった。
蝉が鳴く夏の朝
土方は悠輝の部屋の前にいた。

「…悠輝、起きてるか?」
「…っ」

問いかけると
返事の変わりに、小さく押し殺した泣き声が聞こえてきた。

「おい、悠輝。どうした」

悪いとは思ったが
いつまでも消えない泣き声に
土方は勢いよく襖をあけた。

布団の上に座り込み
丸くなっている悠輝

「おい、悠輝!!!」

傍により悠輝の肩に手をやって揺らす
すると、悠輝はゆっくりと顔を上げた。

瞳からとめどなく流れる涙

「ぉ、とう…さん」
「……っ」

小さく聞こえた言葉
土方は、悠輝を抱きしめた。

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