桜花~君が為に~
「土方…さん?」
ようやく落ち着いたのか
悠輝は掠れた声で彼の名を呼んだ。
少し身体を離し、涙を拭う
それから土方から完全に身体を離した。
「お見苦しいところを見せてしまって、すみませんでした」
もう大丈夫です。と無理に笑顔を作った。
―――…全然、大丈夫そうにみえねぇんだよ
彼女の笑みに土方は不機嫌そうに眉間に皺を寄せた。
「何か、用事があるんですよね?」
「ん?あ、あぁ…少し、話したいことがあんだ
着替え終わったらいつもの部屋まできてほしい」
いつもの部屋とは、新撰組の幹部が集まって話す部屋のこと
この部屋に集まると言うことは
次の任務か、または何か事件が起こったということ
「わかりました。すぐに行きます」
「じゃあ、俺は先に行ってる」
「はい」
悠輝の返事を確認して
土方は立ち上がった。
襖を開けて廊下へと出る
後ろを向かないまま、土方は小さく呟いた。
「…無理すんじゃねぇよ
女は護られとけ」
「え?」
それってどういう…――――
そう聞き返す前に土方の手によって
襖は完全に閉じられた。
遠ざかる土方の足音を聞きながら
悠輝は、ただ呆然と立ち尽くしていた。