桜花~君が為に~

第十七話


土方の部屋へと続く長い廊下を歩く
今、手には何も持っていない。
湯飲みは先に調理場によって盆と共においてきた。
洗うのは土方の湯飲みを下げてからにしようと、洗っていない。

「土方さん。悠輝です」

土方の部屋の前まで辿り着き
床に正座して、襖の向こうにいるだろう人物に話しかける
数秒して「入れ」とぶっきらぼうな答えが返ってきた。

その言葉に従い、襖を空けて部屋の中に入る。
土方は、開け放たれた窓の近くの壁にもたれ、煙管を吹いていた。
その側にある机には、まだ大量の書類が束になって置いてあった。
近くに飲み終えた湯飲みもある。

「話ってのは何だ」

土方の側までより、腰を下ろすと
すぐにそう問いかけられた。

「土方さん。前に私に『女は黙って護られとけ』って言いましたよね」
「あぁ」
「でも、今の私は…
いえ、俺は女ではありません。男です
だから、護られているだけなんて、嫌なんです」

屁理屈にも聞こえる言葉をきっぱりと言い放つ
何の迷いもなくまっすぐと土方を見つめる悠輝。
そんな悠輝を、土方は酷く驚いた顔で見るが、
すぐに気を取り直し…

「……どういうことだ」

悠輝に聞き返した。
そんな、土方の言葉に
悠輝はまっすぐ、はっきり、言葉を発した。

「弱くて、護られているばかりの悠姫は今日で終りです。
これからは、皆を護る強い悠輝になります」
「………」
「だから、私に…俺に
稽古をつけてください。」
「………」

悠輝の言葉を土方はただ黙って聞いていた。
眉間にしわを寄せた、鬼の副長の顔で
悠輝を睨み付けるように
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