空耳此方-ソラミミコナタ-

「林田さん、また来てくれるって?」

「いえ…そんなお話はしてませんが…」

林田というのは船の運転手だったおじさん。
否定するとやっぱり、と言いたげにしたり顔で頷く。

「だよね。あの面倒臭がりな林田さんが来る訳ないな」

「え……」


男性が頷く度に、心の淵にいた不安が確実に大きくなる。

何故だか男性が悪魔のように思えてくる。

「じゃあ君たち、どうやって帰るんだ?」

異常に脂汗をかきつつ炯斗は無理やり笑顔を作る。

「え…嫌だな、定期船くらいあるっしょ?」


すると男性は目を丸くしてハッとひきつって笑う。




待て……

待てよ…


その先は……


頼むから


その先は言わない―――


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