空耳此方-ソラミミコナタ-

「そんな顔しなくて大丈夫さ。谷の向こうに行きたけりゃ、山のふもとにケーブルカーがある。そいつに乗ればすぐさ。

あと、もう一本違う方にも出ててな。そいつは山の頂上に繋がってるぜ。

今日見たいに綺麗に晴れてる日にゃ島と海を一望出来るぞ」

そんなにいいものなのか。
顔を輝かせて説明する男がここに。

そうだ、とロビーのテーブルを振り返り、「写真があったなぁ…」と歩きだす。


「わわ、大丈夫ッス!あれなら俺ら自分で行きますからっ!」


これ以上話に引き込まれていたら日が暮れてしまう。
炯斗が慌てて断れば、羽田は残念そうに眉を下げた。
しかしここは心を鬼にして三人は花守荘を出た。

「何か…必死の気を感じるよ、羽田さん」

「こんな島、そうそう来ねーしな」

【サービス業は大変ですね】



憐れみの目で振り返る三人。


そこにはこんなことを言われてるとは露知らず、手を振って三人を見送る羽田が立っていた。
< 110 / 374 >

この作品をシェア

pagetop