空耳此方-ソラミミコナタ-
「そんな顔しなくて大丈夫さ。谷の向こうに行きたけりゃ、山のふもとにケーブルカーがある。そいつに乗ればすぐさ。
あと、もう一本違う方にも出ててな。そいつは山の頂上に繋がってるぜ。
今日見たいに綺麗に晴れてる日にゃ島と海を一望出来るぞ」
そんなにいいものなのか。
顔を輝かせて説明する男がここに。
そうだ、とロビーのテーブルを振り返り、「写真があったなぁ…」と歩きだす。
「わわ、大丈夫ッス!あれなら俺ら自分で行きますからっ!」
これ以上話に引き込まれていたら日が暮れてしまう。
炯斗が慌てて断れば、羽田は残念そうに眉を下げた。
しかしここは心を鬼にして三人は花守荘を出た。
「何か…必死の気を感じるよ、羽田さん」
「こんな島、そうそう来ねーしな」
【サービス業は大変ですね】
憐れみの目で振り返る三人。
そこにはこんなことを言われてるとは露知らず、手を振って三人を見送る羽田が立っていた。