空耳此方-ソラミミコナタ-
しかしよくよく考えてみれば、家族で行ったキャンプでは祖父ほどの年齢の人を見たことがない。
常識から逸したことだったからなのか。
「確かに、老人のすることではない、かな」
苦笑のままの恵が頷いた時だった。
「だとして、人の趣味を奪っていいことにはならんだろう」
低い、しっかりとハリのある声が奥から響いた。
見ればそこには、白髪混じる男性が立っている。
髪は短く、無数の小じわが寄ってはいるが肌も若々しい。
老いを感じさせない見た目からは、活気あふれるオーラがビシビシ出ている。
先ほどの音のときにぶつけてしまったのか、腰をおさえる表情は痛々しくゆがんでいる。
ようやく出てきた、と恵は笑って彼の隣に回る。
「紹介します、私の祖父の舘見 透(たちみ とおる)です」
「ふむ、孫の恵がお世話になっているようで」
【いえいえ、こちらこそお世話になってます】
言乃の携帯を見て、透は眉をひそめる。
すかさず恵が透に耳打ちで説明した。
言乃のコミュニケーションは特殊な故、大概の人間は驚くなり不快を感じるなりするという。
互いの自己紹介を簡単に済ませ、恵は透に向きなおった。