空耳此方-ソラミミコナタ-
透の体がビクッと震えた。
ひどく緩慢な動きで入り口を振り返るその顔は血の気が引いていた。
マズイ!!
そんな言葉が言わずとも聞こえてくるようで。
透は滑って転びかけながら慌てて穴から出た。
遅れて炯斗たちもそれに続くが、透は走って行ってしまう。
しかしもう一度声が響いたとき、彼の動きはピタリと止まった。
「あらっ!舘見さんまたそんなところにいて!危ないから行ってはいけないと申し上げたでしょう!!」
すっかり石膏像のようになってしまった透のそばにある人物がずんずんと歩いてきた。
彼の前に仁王立ちになると鼻先に指を突き付ける。
「全く何度言ったらわかるんです。そこは危険区域で、立ち入り禁止なんです!それなのに懲りずに来て!私の苦労も考えてくださいな!こんなこと喋ってる間にもご飯はどんどん冷めて行くんですよ!!ああ、勿体無い勿体無い」
「……すみません」
先程までのキリッとした祖父の威厳は何処へやら。
突如現れたおばさんのマシンガントークの前では形無しのようだ。
「ブフッ!!」
いきなり吹き出した炯斗に視線が集まる。
「ププフ……これぞホントのかかあ天下…ブッ…」
「炯斗くん、下らないです」
言乃の呟きが飛んでも、炯斗は腹をかかえて笑っていた。