空耳此方-ソラミミコナタ-
光の先にあるのは洞窟の壁だけ。
しかし、その壁は明らかに他の壁とは違っていた。
自然に出来たはずの洞窟。
無論、全方位の壁がゴツゴツとし、じんわりと湿った空気を放っている。
湿った空気を放っているのは変わりはない。
しかし、一部だけが平らになるようにきれいに削り取られている。
異様なのはそれだけではない。
その平らに整備された箇所に、横書きで文字が、平仮名が刻まれていたのだ。
平仮名──日本に古くからある読むことのできるはずの文字。
それなのに
【なんだか、すごいと思いません?】
ちょっといたずらっぽく笑う言乃。
それと壁とを見て、絞り出せたのは苦笑だけだった。
それなのに、だ
引きつった笑いのまま壁を見回す。
何度見ても、何も変わりはしないとわかっていても、目をそらせない。
「すごいっつーか何つーか……意味わかんねぇ……」
そこに刻まれた文字は読むことが出来ない、
「本当に、何なの…?」
文法も何もへったくれのない、
訳のわからない、文字の羅列だった。