空耳此方-ソラミミコナタ-

異常なくせに、我が物顔で壁にたたずむ文字の羅列から目を引きはがし、恵を振り返る。


「…こんなもんの目の前で、あんたのじいちゃんは何がしたかったんだ?」

【これを一人で解読しようと思ったみたいですよ】


言乃が今度は床を照らし出す。
ランプの替えの電球や寝袋などの荷物がまとめられた一画。
そこには破られたノート紙が大量においてあった。

それら一つ一つには鉛筆で壁の文字や、彼が文章に直したり、かき消したりしてあった。

恵は未だ壁の文字を見ている。
炯斗は横で肩をすくめて、言った。


「……多分、これが“大変なこと”の鍵って考えていいんじゃね?」

「そう、だと思う……でも、何で…」

【それはまだわかりません。わからないことが多すぎます。透さんが戻ってきたらお話を伺いましょう?】


恵は、力なく頷き、三人は一時その場を後にすることにした。


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