空耳此方-ソラミミコナタ-
「いやぁ…文字を書くだけならこんなに綺麗な四角に壁を削る必要はないんじゃないかと思ってね。
なら、その綺麗な四角に秘密がないか、という仮定で計っただけさ」
【四角に注目した理由は?】
言乃は身を乗り出している。
あまりに突然なこの熱心さを見て、炯斗と恵は顔を見合せ首をひねる。
「他にヒントがなかったからだ。暗号というからには解き方とその指針は必ずあるはずだ。
なければそれは暗号ではなくただの自己満足の文字さ。自己満足なら頭のなかだけで作っていればいい」
【なるほど、ありがとうございます。では最後に。TKRはヒントではないのをどうしてお分かりになったのですか?】
克己は目を見張って言乃を凝視した。
【明らかに異質な三文字。大体はこれをヒントだと思いますが?】
「……」
克己が固まり、時間が止まる。
言乃の表情は決して厳しいものではない。
しかし――
この暗がりが、ボンヤリとした明かりが
言乃の持つ携帯画面が、そこに浮かぶ無機質な文字が
洞窟内の空気を止めてしまっていた。