空耳此方-ソラミミコナタ-
花守荘の夜
洞窟を出てからすっかり力が抜けてしまった克己を支えつつ一行はやっと花守荘のエントランスにたどり着いた。
「大丈夫か?克己さん」
「ああ…もう大丈夫。助かったよ…」
ロビーのソファーに身体を埋めた。
額に手をあて、天井を仰ぐ。
洞窟で暗号を見つけた時の姿はどこにもない。
あまりにしおらしい克己が心配になって炯斗はもう一度聞いた。
「本当に大丈夫か……?」
克己は手を下ろし、緩やかに微笑んだ。
「日奈山君は優しいね…こんな僕なんかに……、?」
自分の正面に影が落ち、言葉を切る。
克己の前に、恵が見下ろすように立っていた。
「あの…さっきのおじいちゃんの言葉、どういう意味ですか?」
「…これは…僕たち三人の問題なんだ…」
沈痛な声で絞り出す。
しかし恵は克己を真っ直ぐに見つめ引きさがらない。
克己も相対して恵を見つめ返す。