空耳此方-ソラミミコナタ-
――
ぶつかる視線を恵が逸らした。
「…何が何だか分からないですよ…」
険しい表情で彼女は呟いた。
無理はない。
キミも、透も、克己ですらも――固く口を閉ざし、語ろうとはしない。
振り回されるこちら―恵には特に―に鬱憤と不満と不安が溜まりに溜まってきている。
お前らそんなに秘密主義で楽しいか!!
とでも言いたい。
そんな彼女を克己は申し訳なさそうに見つめた。
「…でも僕は……彼女を殺したも同然のことをした。透君が怒るのは当たり前だ。彼は何も悪くない。
でも、だからこそ僕は彼女が何を遺したのかを知りたいんだ! …それだけはしっかり伝えておくよ」
「………」
恵はもう一度克己を見つめて、ふいと踵を返した。
何も言わず大股で階段へ向かう。
言乃と炯斗はサッと目配せし、言乃が小さく頷くと小走りで恵を追いかけて行った。
静かになったところで炯斗は克己の横に座った。
「まぁ…あれだ。喋らないと伝わることも伝わんないぜ? モテない男の典型だ」
努めて明るい調子で言うと、克己は苦笑した。
「あはは…だから僕、まだ独身なのかな?」
「…笑えねぇっておっさん」