空耳此方-ソラミミコナタ-
「うー!!んんん!」
「ちょっと黙んなさいって。何か変なことしたいしたいわけじゃないから」
少し下の辺りから女の声が囁く。
人をいきなり捕まえるのって変なことじゃねえの!?
引きずりこまれた炯斗は、後ろから手と口を押さえられ身動きが取れない。
思いっきり抵抗してもいいのだが、あまり敵意が感じられない上に相手は女性。
抵抗して怪我でもさせたらなんだか悪い気がして、穏便にすむことを願いつつおとなしく従った。
そのまま通路の奥まで連れてこられ、炯斗は解放された。
「ったく、何なんだよあんたは………なっ!!」
振り向いた炯斗は目を見開いた。
視界で長い髪が揺れる。
細く長い足にスラリとした身体。
着やせして見えるが服の下の大きな──
「だから視線がいやらしいってのよ!」
「あだっ!」
バシッと額をはたかれる。
そうだ、前にもこんなことがあった。
額をさすりさすり、炯斗はにやりと笑った。
「久しぶり、ともちー」
「あんた、私のが年上だってわかってるわよね?」
不機嫌な声で眉間にシワを寄せる人物。
以前の事件で出会った刑事・冬沢朋恵だった。