空耳此方-ソラミミコナタ-
「ったく何なんだよ!! あのおっさんはよ! 井戸端会議のオバサンかっ!」
ようやく羽田から開放された炯斗は開口一番にこう言った。
恵はクスクス笑いながら階段を上る。
「炯斗くんって意外とマダムにもモテそうだよね」
「やめれ、縁起でもない! 絶対ヤだかんな!」
階段を上りきり右に折れる。
その先に部屋がある。
続く通路に入ろうとすると後ろから声がかかった。
「二人とも!」
振り返ると克己が息を切らせて階段を上がってきていた。
「ハァ…ハァ……二階だってのにこのざまだなんて。衰えたなぁ…」
「大丈夫スか?」
今日が初対面の相手だというのにこの言葉を何度克己に寄せただろう。
「今日は本当にお世話様。暗号だけじゃなく透君に巡り会わせてくれたこともね」
「おじいちゃんと…?」
「そう。コレを機会にわだかまりをなくそうと思うんだ」
あのじいちゃん相手にそんなこと出来るかな?
二人は同時に思い、チラリと目を合わせた。
まぁ、下手なことは言わないほうがいいと、頷くだけにした。
「本当にありがとう。暗号のことで何か進展したら僕にも教えてくれると嬉しいな。じゃあ、お休み」
「「お休みなさい」」
最後にまた笑みを向けると克己は炯斗たちに背を向けて反対の方のフロアへ消えた。
「なあ」
部屋の前に着き、炯斗は恵に声をかけた。
扉を半開きにした状態で、恵は振り返る。
「今日はいろいろあったし、夜は会議しないでゆっくりしようぜ」
「うわ意外、今から遊ぼうとか言うと思ったのに」
「何度も言うけど俺は紳士だか──」
「おやすみー」
「最後キメるとこまで見ろよ!!」
恵はまた最後にクスッと笑って扉を閉めた。
重いドアを苦笑して見つめた後、炯斗もまた部屋に入って大事なことに気がついた。
「あ…ヤバイ。一人ってつまんねぇ!!!」
その叫びを聞いて、女子二人は大いに楽しい夜を過ごしたという。余談。