空耳此方-ソラミミコナタ-
人が落ちないようにある柵。
そのそばまで近づいて下を見下ろした。
あまり深さのない谷。
薄暗いが底までしっかりと見える。
目線を端から移動させていくと───
「う、嘘だろ……」
誰かが言っていた。
ある筋の人間の勘はよくあたるものだと。
それが嫌なものであれ、良いものであれども。
力を持ってしまった自分はその筋の人間に含まれるのか?
理由は何であれ
嫌な予感はしっかりと
あたっていた。
当たってしまった。
「きゃぁぁああああ!!!」
恵の悲鳴が響く。
反響して山彦のように繰り返される。
前のが消えないうちに新たに生まれる声は不協和音を織り成し、眼下にあるものを象徴した。
下に見えたのは、無惨な物体に成り果てた克己の姿だった。