空耳此方-ソラミミコナタ-
炯斗は思わず、自嘲的に笑った。
「…強いな…ことのん」
しかし、言乃は苦々しげな顔をして俯いた。
「…言いたかないですけど、見慣れてるんです」
「?!」
「幽霊の中には、死んだときのままの格好でうろついている人は結構いるんです。私には、どうあっても見えてしまうので…」
「慣れるしかなかったのか…」
悪いことを聞いてしまったと、炯斗も顔を背けた。
言乃は振り払うように頭を振ると、もう一度炯斗を見つめた。
「炯斗くんの目は…きっと他人、いや私のとも違います。もっと精巧で、いろんなものが見える。そうですね?」
「……」
「私が思うに、炯斗くんが見たものは克己さんの痕跡じゃないでしょうか?」
「痕跡?」
言乃は頷いた。言葉に力がこもる。
「たどっていったら克己さんに辿り着いたんです。逆に遡れば──」
炯斗は言乃の言わんとすることに気づいた。
「克己さんの死についてなんかわかるかもしんねってことか!!」
言乃は大きく頷いた。炯斗の目にも力が戻る。
出来ることがある──そう思うと俄然、元気が沸いてきた。
炯斗はバッと立ち上がって言乃を見る。
「よし、行こうぜことのん」
「はい!」
丁度その時、下から二人をせかす声が聞こえてきた。
二人は顔を見合わせると、あわてて前の一行を追いかけた。