空耳此方-ソラミミコナタ-

行動開始


一夜明けた花守荘は、向かって左側が黒くこげているものの、他はあまり被害を受けていないように見えた。
一行はエントランスからロビーのソファに腰掛けた。

炯斗は火事のあった方を見つめた。

「あんなに煙出てたわりに、意外と残ってるんだな」

「ええ。地元民の早い対応もあって、向こう側の3,4階はヒドイけど2階からはまだ普通に使えるほど。コレくらいの被害状況で本当によかったわ」

火事での被害は少なくとも、別件で犠牲者が出ている。
四人には良かったとはいえなかった。



車の音がしたと思うと、エントランスの自動ドアが開く。
すると外から人がドヤドヤと大量に入ってきた。
それを横目で一瞥してから朋恵は透を見つめた。

「ところで、舘見透さん。鹿沢克己氏と昔なじみのお友達だそうですね」

「あ、ああ」

「お聞きしたいことがありますので、別室によろしいでしょうか?」

丁寧だが有無は言わせまいとした空気。朋恵は立ち上がって透をしっかと見下ろす。
四人は、いつの間にか警察官に取り囲まれていた。

「なっ……!」

四人が仰天している中で、朋恵は振り返ってため息をついた。
朋恵が目を上げると、前列の一人が敬礼する。

「冬沢刑事!要請されました応援部隊ただいま到着いた──」

「何っっで全員で来るのよ!」

言葉を遮って朋恵が怒鳴った。
部下の者たちは突然の怒声にビクリとする。

「挨拶なんか代表者だけでいいでしょ!」

「し、しかし──」

しかしの後から部下の声が段々小さく消えた。
来て早々怒られて、明らかにうろたえている。

「では、捜査を始めたいのですが、そのためには現状を伺いたく──」

朋恵の青筋が切れる音がした。

「だったら今の空気読んでもうちょい後にしなさい!!」

「す、すみませんっ!!」

大勢の警察官は蜘蛛の子を散らすように逃げて持ち場に消えた。
一介の刑事でしかないはずなのにこの統率力──というより

「と、ともちー怖えぇ……」

「何だったんだ……」

男二人は見事に身体がすくんでしまっていた。


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