空耳此方-ソラミミコナタ-
何なんだコイツは。
その言葉をぐっと飲み込んで朋恵は髪をかきあげた。
「ホッントに単純ね」
炯斗はニカッと笑う。
誉めてない。喜ぶところじゃないっつの。
ハァ、と息を吐き出す。
なんか毒気抜かれちゃった。
「叫び声が聞こえたのよ」
「声?」
「ええ、中庭辺りから大声で『火事だぁ!!』って。気付かなかったの?」
「ガッツリ寝てた」
呆れた、と朋恵は顔を逸らす。
ムッとして炯斗も言い返した。
「じゃあ何でともちーは起きてたんだよ!」
「えっ…」
朋恵は少し身をひく。
逆に炯斗はズイと迫る。
「な・ん・で?」
一字ずつ区切って聞くと、朋恵は狼狽えて目線が泳ぐ。
「んー?」
冷や汗がドッと押し寄せる。
「とも……ぢっ!!」
「あ…ごめん。あんまり近いんで足が」
足が出てヒールが炯斗の足のど真ん中に突き刺さってしまった。
他意はないよ、あんたが近いのがいけないだけ。
「い…いだい……」
「ごめん、お詫びに言うからさ」
手を合わせて謝ると炯斗はノロノロと立ち上がった。
「単なるガールズトークよ!盛り上がっちゃって夜遅くまで、さ」
「俺も参加したい!」
バシッ!
ごめん、今のはわざと。
ヒールが脛にクリティカルヒット、炯斗は悲鳴を上げてうずくまった。