空耳此方-ソラミミコナタ-
羽田を探しにいくついでに炯斗は朋恵に囁きかけた。
「なぁ──」
「郁美の線の疑うの? それはないわよ。昨夜私たち、アンタが羽田さんと話しているのを見た後はずっと部屋にいたわ。
風呂にいたって扉が開けばわかるし、短時間で山に運ぶことなんて出来るわけない」
朋恵は炯斗の言葉を遮るようにまくし立てた。
友を疑われるのは嫌なのだろう。
前を向いたままだが、チラリと炯斗にながす視線は厳しい。
炯斗は苦笑し小さく息を吐き出した。
「わかったよ」
「犯人探しは結構だけどね、このヤマを私たちは短期解決をするつもりなの」
朋恵は足をとめて炯斗をまっすぐ見つめた。
固く張り詰めた雰囲気に、身を構える。
「昨日からこの島には誰も入っていないし誰も出していない。犯人はこの島に絶対にいるのよ。
警察の威信にかけて絶対に逮捕する。その捜査の周りでふざけたことをされたくはないのよ」
──ふざけたこと
その言葉に炯斗は眉を吊り上げた。
「俺たちは遊びでやってんじゃねーよ? いたって真剣だ。それに、少しの間とはいえ克己さんと会話もしたし、生きてた人間だって知ってる。
現実感のないニュースで伝えられる殺人とは違う」
「だったら」
「それに! 友達の身内が容疑者の最有力候補だぜ? 警察の前にその友達に失礼だ」
炯斗は少し語気を強め朋恵を睨む。
朋恵も負けじと睨んでくるが、怒りを孕んだこちらにとっては怖くない。
炯斗は視線を落とし、嘯く。
「目の前に視えるものがあるのに、視えない奴らがごちゃごちゃしてて、それでもことのんは動いて、でも俺はただ見てる。そんなの出来る訳ねえって…」
「え?」
朋恵は首を傾げる。
しかし、炯斗は打って変わって明るく言った。
「なんでもない!」
「何なの?」
「いいから!郁美さんが待ってるぜ!」