空耳此方-ソラミミコナタ-
「他に鹿沢氏と関わりがあった人物はご存じですか?」
「それなら――」
羽田は炯斗の方へ視線を寄越した。
だが、炯斗たちのことは朋恵も了解している。頷いて先を促した。
「後は…樋山さん、かな?」
新たな名前だ。
炯斗は少し二人の方へ体を近付け耳をすませる。もちろん、朋恵が逃さず聞く。
「樋山とは?」
「五年くらい前からかな…この島っていうか花守荘に居候してる人なんです。
何か変な感じの人でね、悪い人じゃないんだが……雑草だか薬草の研究をしてるらしいんです」
雑草と薬草では大いに違うのだが、羽田にはあまり感心がないらしい。軽い調子で言う。
「鹿沢さんもここ二年くらいの常連さんだから、その縁でかねぇ…仲良さげに喋っているのをよく見かけましたよ」
「その樋山さんは今何処に?」
羽田は困ったように眉を下げた。
「わかりませんね……いつも草を目当てに島を駆けずり回ってますから……島の何処かとしか言えません。
夕食時には帰ってくると思いますよ」
朋恵はメモを閉じて顔を上げた。
「ご協力、ありがとうございました」
「い、いえ…」
羽田は申し訳なさそうに頭を下げつつまた奥に消えた。