空耳此方-ソラミミコナタ-
手紙
中身には、十数枚に及ぶ便箋が三折りになって入っていた。
薄い紙の束がやけに重い。
重なりあった開き難い手紙を震える手でもとにすると、封筒と同じ綺麗な文字の羅列。
黒い連なりが目に入ったとたんに、この手紙を封筒に戻して日記帳に閉ざしてしまいたい気持ちが沸き上がった。
まだ、帰れる。
この扉を閉じて彼女のことを永久に知らずにいることだってできる。
しかし――何故だろう。
背徳感に襲われながらも捨ててしまいたいとは思わなかった。
やはり、知らなければならない。
ダメだったのなら、後で克己さんに謝ろう。
炯斗は体の力を抜いて……最初の文章を読み始めた。