空耳此方-ソラミミコナタ-
本当に暑い……夏だった。
そんなのをうだるような、なんていう言葉があるけど、まさにソレだ。
けど、例外が一人。
その例外は元気すぎる速さで砂浜を走っていた。
「ほら、早く来いよ!」
それを必死に追いかける影は砂に降りた途端に足踏みした。
「待ってよ!…あっつ!……なんでこんな熱い砂の上を裸足で走れるの?」
「ほーら遅い!」
「ちょっと、克己くんだけじゃなくて私もいるのよ?」
影の後ろから来たもう一人が文句を言うと、例外・舘見 透はようやく足を止めた。
砂の手前でたたずむ二人に向かって頬を膨らませる。
「早く来いよー遊べないぞ?」
「遊ぶどころか、私たちはこの砂に立てもしないの」
「軟弱だなぁ、克己は」
「えっ?僕が!?」
矛先を向けられて驚く克己に、透は意地悪そうににやりと笑った。
「おうよ、俺はここに立てる。玲子は女の子だから仕方ないとして……あれぇ?」
わざとらしく顔を窺ってくる透。
克己は口をへの字に曲げて言った。
「僕だって男だっ!」
そういってサンダルを投げ捨て、砂に飛び降りた。
「おっ?」
「………あっつい!!やっぱり無理!!」
砂に足をうずめたというのにゆでだこのように真っ赤。
慌てて砂から抜け出すと透が声をあげた。
「駄目じゃん」
「…うるさい」