空耳此方-ソラミミコナタ-
やっぱり、部屋は見ない方がよかった。
「っ…バカ野郎ぉ……!」
炯斗は、手紙をぐしゃりと握り潰した。
失礼だとは思いはしない。事実だ。
玲子の残り香を探して、こんなものまで遺していたというのに。
「なんも伝えられないうちに死んじまいやがって……ただの大バカ野郎だよ、克己さん…」
手紙を広げて封筒に戻し、体をベッドに投げ出し、顔を埋める。
炯眼―他人の痕跡が見えるだけの能力じゃなかった。
この光溢れる手紙に秘められた、克己自身の記憶の欠片までをも映し出した。
こんなもの見せて、俺にどうしろっていうんだよ……
こんな重要な他人の秘密を、おいそれと撒き散らす趣味はない。
何なんだ
その思いしかない。
悔しさと悲しみと虚無感が胸のうちを支配して、どうしようもない涙が次々に溢れる。
しわが寄るのなんてお構い無しに、きつくシーツを掴んでは離した。
「ごめん、恵……今、恵を元気付ける気分にはなれねえや……」
自嘲気味に呟くと、しばらくそのまま手足を投げ出していた。