空耳此方-ソラミミコナタ-
大きく深呼吸して、炯斗は足を下の階に向けた。
探し人はすぐに見つかった。
自販機でコーヒーとお茶を買い、一人でロビーのソファに座るその人に声を掛けた。
「どっち飲む? じいちゃん」
「……金髪小僧…」
「炯斗ね。そろそろ覚えようぜ」
座る透は物珍しげに炯斗を見上げる。
炯斗の差し出す缶を見て、ちょっと迷った末にお茶を受け取った。
ニッと笑うと炯斗は透の向かいのソファに座って、コーヒーを開け一口煽る。
「…何の用だ?」
手の中のお茶を見つめたまま、低く尋ねる。
炯斗は間に佇むテーブルに、克己の日記を置いた。
「これは克己さんの日記だ。そしてその中に、これが挟まってた」
日記の中から手紙を出すと、透の目が見開いた。
「悪いけど、読ませてもらった」
「お前っ…!」
「じいちゃんも読んだ方がいいと思うぜ」
透は厳しい目で炯斗と手紙を比べる。
やがて、手紙をじっと見つめると、躊躇いがちに手を伸ばした。
封筒から皺くちゃになった便箋を抜き、目を落とす。
克己の告白と、昔話の上を透の視線が滑る間、炯斗は黙って様子を見ていた。
しばらくして、透の手がテーブルに降りた。
そして、苦しそうに語り出した。