空耳此方-ソラミミコナタ-

大きく深呼吸して、炯斗は足を下の階に向けた。

探し人はすぐに見つかった。


自販機でコーヒーとお茶を買い、一人でロビーのソファに座るその人に声を掛けた。

「どっち飲む? じいちゃん」

「……金髪小僧…」

「炯斗ね。そろそろ覚えようぜ」

座る透は物珍しげに炯斗を見上げる。
炯斗の差し出す缶を見て、ちょっと迷った末にお茶を受け取った。

ニッと笑うと炯斗は透の向かいのソファに座って、コーヒーを開け一口煽る。

「…何の用だ?」

手の中のお茶を見つめたまま、低く尋ねる。
炯斗は間に佇むテーブルに、克己の日記を置いた。

「これは克己さんの日記だ。そしてその中に、これが挟まってた」

日記の中から手紙を出すと、透の目が見開いた。

「悪いけど、読ませてもらった」

「お前っ…!」

「じいちゃんも読んだ方がいいと思うぜ」

透は厳しい目で炯斗と手紙を比べる。

やがて、手紙をじっと見つめると、躊躇いがちに手を伸ばした。

封筒から皺くちゃになった便箋を抜き、目を落とす。


克己の告白と、昔話の上を透の視線が滑る間、炯斗は黙って様子を見ていた。



しばらくして、透の手がテーブルに降りた。
そして、苦しそうに語り出した。


< 272 / 374 >

この作品をシェア

pagetop