空耳此方-ソラミミコナタ-

「あの音――克己が逃げた時の音だったか。あれに顔を上げた時だ。

隙を見た玲子に殴られたのだ。
そのままバランスを崩して顔から落ちた」


場所は自然に出来た洞窟。もちろん、地面は石だらけ。

そんなところに顔から落ちたら―――


「ちょうど石の上に頬骨から落ちて、激痛と共に意識は吹っ飛んださ。

気付いて見れば玲子の説教が延々と続いたな」

「うわぁ、可哀想……」

「五月蝿い!」


透もそうだが……克己もだ。

二人に何もなかった、それどころか若干の溝とも言える出来事だったというのに、延々と誤解し続けてしまった。

話し合えば、このようなことは起こるはずもなかったのに。
友人同士故に起きてしまった悲劇というのか。

透が落ち込むのも頷ける。


これ以上三人の中に踏み込むのは辛いが――

意を決して、顔を上げる。


「この最後の方にある玲子さんの『家のこと、そして体のこと』って……何なんだ?」


ピクッとして、透の動きが止まる。
次に炯斗の方を見た時には、白く能面のように表情が消え失せていた。


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