空耳此方-ソラミミコナタ-
「克己にとって唯一残った障害が玲子だった。……そして程なく、玲子が死んだ」
「えっ!?」
炯斗は眉を顰めて透を見た。
しかし透は真剣だ。
「死んだのだ。食中毒による刺激で発作が起こって重体になりそのまま……な」
「……」
「その原因となる食事を作った介護の若い女が捕らえられた」
「でも、それは克己さんの所為じゃなくね?」
炯斗は口元に手を当てて考えた。
玲子の死に、克己のかかわった様子はない。
パコン!
音に目を上げると、透は握りつぶす勢いで缶を掴んでいた。
「違う。違うんだよ小僧」
透は顔を真っ赤に、歯を食いしばってまくし立てた。
「その女はな、克己の部下に金を掴まされてやったんだ! 奴が命令したかどうかは知らん。確証もない! だが事件の前日に奴の部下がその女の周りをうろちょろとしていたのは事実だ!! 警察が掴んどる!
奴が命令したのかは知らんぞ!
だが、これで奴は邪魔者も亡くなり、晴れて島を手にしたのだ!!」
透の声はロビー中に響いて消えた。
炯斗は絶句するしかなかった。
開いた口で、何も言えず、ただ首を横に振った。
透の言葉がエコーのように脳内に響いて消えない。
その透はやりきれない怒りを殺して、ただ小刻みに震えていた。