空耳此方-ソラミミコナタ-

二人はどうだったかはわからないが、暗いこと続きだった炯斗は、事件を忘れて食事を楽しんだ。

言乃は、メールしたことについて何か言いたそうにしていたが、口を開くことはなかった。



部屋に戻って、炯斗はもう一度克己の日記帳を開いていた。

どうしてもわからない。

文面を見る限り、どうみても克己は玲子一筋で自らの手を染めるようなことをするとは思えない。

「あー、わかんねぇな……」

頭を書いてベッドに倒れこむ。
その時、コンコンとドアが鳴った。

「はい?」

開けば、言乃がそこに立っていた。

「少し……いいですか?」

「ああ、いいよ。入って」

身をずらすと、言乃はおずおずと部屋に入って来た。
お互いが向き合うようにベッドに座る。
間接照明が照らす横顔を心配そうに歪めながら、言乃は喋り出した。


「何がありました?」

「え?」

あまりに単刀直入で、一瞬何を聞かれているのか理解出来なかった。

「透さんの怒声……上の廊下でも吹き抜けから聞こえましたよ」

「ああ…そのことか」


丁度いい。
どちらにせよ、恵の耳には入れにくい話だ。

炯斗は、一つ大きく息を吸うと、自分の中でも整理しながら語り出した。

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