空耳此方-ソラミミコナタ-
「だって、おかしいと思わない? 彼女、アズサにとって玲子は身寄りのない自分を引き取って育ててくれた親だよ?」
言われてみてみると、梓の両親は病気で早くに亡くなり、施設に入ったとある。
玲子はその施設から梓と義弟の悟の二人を引き取って育てている。
郁美はさらに続ける。
「アズサが玲子を気に入らなかったのなら、高校を出てすぐに独り立ちしちゃえばいいのに、わざわざ資格とって玲子を介護してるのよ? そんなこと、心無い人に出来ると思う?」
自分なら、絶対に無理だ。
二人は小さく首を横に振る。
「そうだよね。私には、介護しているのが今までの恩返しとしか思えない。そんな人が殺しを、増して親代わりをなんて絶対にないと思うの」
「…私も、そう思うわ。でも、状況からしたら彼女しか考えられないの」
郁美の声と打って変わって、朋恵の声は弱弱しかった。
その朋恵に対して、郁美はまた強い口調で言った。
「それなら、状況がおかしかったんだよ。
そうなってしまった。もしくはそうならざるを得なかった状況が、そこには存在したのよ」
弁護席に立つ郁美は、こんな感じなのだろうか?
目の前の二人を見て、炯斗はふと思った。
朋恵は警察。本来は検察につく相手、郁美の敵である。
これはまさに法廷の一場面なのかもしれない。
そんなことを思っていると、なんだか郁美の言葉が力強いものとして、炯斗を押してくれるような気がした。
「うん。ともちー、いくみん、ありがとな。こんなに調べてもらって」
「別に。貸しは高いからね」
朋恵がふいとそっぽを向くと、郁美は小首をかしげた。
「私は何も──っていつから私もあだ名になったの?」
「「今更かっ!!」」