空耳此方-ソラミミコナタ-


「いやぁ…言うほどいじってはいないんだよ。内装の雰囲気のは美術館のそれにしたかったからね。宿泊の部屋の数や間取りくらいのもんだよ」

「そうなんですか…。でも、すごいですね。そんな指定とかまで出来るんですね、羽田さん」

「い、いやぁ。昔ちょっとデザイナーの仕事を齧ったことがあるだけさ」

羽田が照れたように頭をかきかき言うと、恵は大きく声を上げた。

「デザイナー?!」

「そんなに言うほどのものじゃないって」

【外の壁画も羽田さんの作だそうですね。あれはとても綺麗でしたよ】

「壁画? そんなのもあるの?」

【はい。中庭に出ると見えまよ】

「いつの間に見つけたんだ、君らは」

羽田はもう赤くなって、汗びっしょりだ。
それを見て言乃はクスリと笑った。

「なんだい?」

【隠す必要なんてないじゃないですか。素晴らしいものなんです。胸を張ってください】

「……そんなことを言われるとまたさらに恥ずかしいなぁ…」

「そんなことないですよ!」

宿を買い取り、ちゃんと商売に持っていくのは本当に大変なことなのだろう。
観光客の少ないこんな島では、開店休業も同然であり、商売できてもさらに経営が難しい。
それを一人でこなし、オーナーを務める羽田。
苦労は絶えないが、少しずつでも超えてきたことは誇っていいはずだ。

言乃は、彼の謙虚さに平伏する思いだった。


【そういえば騙し絵の美術館とありましたが、ここは屋敷にも仕掛けがありますよね?】

「え? そうなの?」

「!! あ、ああ…そうだよ。建設当初から考案されていたものは大体そのまま……採用されてるよ」

なんだか歯切れが悪い。
それが気になり、言乃はその言葉をメモにとりつつ羽田をチラと見る。

変わりはないように見える。

……気のせい、でしょうか?

内心で首を傾げつつ、大事なことを書いたメモをしまいこむ。



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