空耳此方-ソラミミコナタ-
話を聞きだせるのはこのあたりまでですかね。
聞きたいことは聞き終えたと、ものを片付け始めた言乃の傍らで、恵はまだ羽田とデザインの話について聞いていた。
「そうだね…高校を出て専門学校に行って、その後向いてないって気付いたんだな」
「もったいないです! こんなにすごいことが出来てるのに!」
恵が不服そうに言うと、羽田は少し嬉しそうに苦笑した。
「そう言ってくれるのは嬉しいけどね。もっといいのを考えるのはごまんといる。私には、この花守荘が一種の宝みたいなものだから……それだけで十分だ」
「何か……ロマンですね…。でもそれだけって少し寂しくないですか?」
恵はうっとりとしていた表情をぽっと元に戻し、羽田に尋ねる。
「あー……まあ、そうだねぇ」
「ご家族とかは、いないんですか?」
「残念ながら独身だよ。親も一人いた姉も、もう随分前からいない」
「あ…ごめんなさい」
恵がすぐさま謝ると、羽田は気にしないで、と弱く笑った。
視線をずらすと、支度を終えた言乃と目が合う。
「もう、終わりかな?」
【はい。お時間をとらせてしまいすみませんでした。ご協力、感謝いたします】
「いやいや。いいんだよ」
二人は、深く頭を下げて部屋を出た。
閉まった先のスタッフルームを未だ見つめ、恵がポツリと漏らした。
「羽田さん、がんばってるんだね」
【そうですね。たった一人で……本当にすごいと思いますよ】
何よりも、その寂しさを感じさせずに人を癒そうというその精神が。
いや、もしかしたらそのサービス精神は寂しさを紛らわせるためにあるのかもしれない。
【…行きましょうか】
「そうだね」
その時玄関のほうから、二人に真昼のような声がかかった。
「舘見さん! 屋代さん! ちょうどいいところに!!」
「ん?」