空耳此方-ソラミミコナタ-
言乃は小さく首を振った。
「そういう意味ではなく、事件の根底に関わっている気がしてならないんです」
「うーん……じゃあ、もっかい解読してみるか?」
「……」
解読──といっても、何の手がかりもヒントもなく行き詰っていたものが、そう簡単にできる訳はない。
三人は数日前のように頭を寄せてメモ書きを覗き込む。
今回も、初めに炯斗が匙を投げた。
「ダーメだ。さっぱりだ」
「とりあえず、今度は暗号のことを頭にいれつつ調べようよ」
同じように頭を後ろに戻して、恵が見回して言った。
「調べるとは、一体何を?」
言乃が首を傾げると、恵はにやりと不敵に笑う。
「玲子さんのことだよ」
「何で?」
「何でかって?」
椅子の背もたれを前にして座りきょとんと言った炯斗に、恵は驚いた顔で繰り返した。
「何を言ってんの。玲子さんは生前この島で暮らしてたんだよね? だったら誰か知ってる人がここにいてもおかしくないんじゃない? アズサさんみたいな人もいるわけだし聞き込みしてみれば──」
『呼びましたか……?』
恵の言葉に重ねるようにして、噂の人物が中心に現れた。
うひゃあ! とした声を上げて恵が椅子に隠れる。
「いいいいきなり出てこないでください!!」
『……ごめんなさい』
相変わらずのぼんやりとした調子で軽く頭を下げるアズサ。
炯斗は面白そうにそれを眺め、言乃はやれやれと肩をすくめた。
「ってか二人とも知ってたんなら言ってよ!!」
「え、だって面白いじゃん?」
「全然!!」