空耳此方-ソラミミコナタ-
なんとか怒る恵をなだめ、三人はまた座ってアズサに視線を集めた。
「で、早速聞きたいんだけど、玲子さんてどんな人だった?」
『おばさん…?』
アズサの目が、すっと細まった。
炯斗たちをゆっくりと見回し、いつになく険しい表情を作る。
『貴方達も…疑ってるのですね…私のことを』
「いやま、怪しいっつったらそうなんだけどさ」
「炯斗くん!」
言乃が睨むと、炯斗はだってさ、と頭をかく。
「怪しいもんは怪しい。けど、違和感があるのも確かだ。はっきり言って今回のことはアズサさんの事件も関係してると思うんだ」
「そう! 私たちは知りたいの! だからお願いします。当時のことも含めて、知ってること全部教えて!」
続けて恵がまくし立てる。
大きく息を吐き出して、アズサは目を閉じて考えこんだ。
その間の痛いほどの静けさ。
ふわりふわりと動くアズサのスカートの裾が、時の進みを和らげる。
『わかりました。初めて私の存在に気付いてくれた貴方達です。ご協力しましょう』
「本当? ありがとう!!」
思わず立ちあがった恵がアズサの手をとる動作をすると、彼女はぼんやりと目を見開いた。
だが顔を輝かせる恵をもう一度見下ろすと、ぎこちなくぼんやりとした笑みを浮かべた。
それは、ずっと止まっていた機械が、動き方を思い出したかのような笑顔だった。
もう一度目を閉じて、瞼の裏に懐かしい景色を追いながら、アズサは語りだした。
『玲子おばさんは、施設で暮らしていた私と悟を引き取って育ててくれた。誰とも、悟とも血のつながりはない家族だけど、ちゃんと家族だった。
でも、玲子おばさんはいつもどこか悲しそうだった。旅行に行くときも、遊ぶときも。
一番悲しい顔をするのは、決まって昔の話が出るときだったわ』
克己のことを思い出していたのだろうか?
別れすれ違うことを繰り返した片割れに何を想っていたのか、知る術はもうない。
『体が弱いハンデを見せずに、でも、いつ自分がいなくなっても私たちが生きていけるように、家事や生き方を教えてくれる人だった。
そんなおばさんが、週に一度訪れる場所があった。
まだ子供だった私たちは、好奇心から、おばさんを尾けた』
「ナイス好奇心! ナイスがきんちょ!」
「炯斗、茶々いれないで」
恵に一蹴され、押し黙る。
アズサの話はまだ続いた。