空耳此方-ソラミミコナタ-
「なんだ?」
「さあ?」
朋恵の背中を送り、首を傾げる。
この人物―冬沢狸翠とある。どう見ても朋恵の関係者だが―に苦手意識でもあるのだろうか?
ともちーがそこまで嫌がる人って……想像するとちょっと寒気がする。
「とりあえず、掛けてみたら?」
恵の言葉に頷き、発信ボタンを押す。
緊張して汗をかきながら携帯を耳元に持っていく炯斗。
その様を、二人は固唾を飲んで見守っていた。
『はい、冬沢です』
ある程度年のいったダミ声が響いた。
「あ、あのっ! 俺はですね、ともち……いや、冬沢朋恵刑事の紹介で…お電話さしてもらいまして…」
何を言ってるんだ俺?
なんだか電話越しに無言の呆れた空気も感じる。
「えっと! 日奈山炯斗っていいます!」
『…朋恵がお世話になってるようで。朋恵の父の狸翠(りすい)です』
「え? あ、そうなんすか」
完全に不審がってる声の狸翠。
ぶっちゃけ怖い。携帯がベタベタしてきたので、早めに切りだそう。
「あの、15年前の鹿沢建設の横領事件について詳しく調べてもらいたいんスけど…」
『何で俺が』
「ともち…いや朋恵さんがあんたに頼めって言うんで」
『………』