空耳此方-ソラミミコナタ-
「………」
「な、なんだよ。男に見つめられる趣味はねーぞ!」
ちょっと前にいきなり抱きつかれたけど。
そんなことを思いつつ樋山の視線を真っ向から返す。
「…無用な欲は悲劇を呼ぶ。身のためだ。手を引け」
「あなたに言われる意味がわかりません」
「……それもそうだな」
樋山はついと目を逸らした。
「なんだか恵ちゃん、樋山さんのこと…」
「うん。嫌いそうだな」
「うるさいなぁ、どうだっていいでしょ!」
「あ、図星だ」
もう、と膨れっ面で炯斗に手を出すがあえなくかわされる。
「!」
笑って逃げていた炯斗の視線が下に落ちる。
慌ててポケットを探って携帯を取り出す。
――――狸翠からの連絡だ。
携帯を出すと同時に、炯斗のポケットから一枚の紙が滑り落ちた。
「ぁあっ!!」
「……?」
吹いた風によって紙は炯斗の手を掻い潜り、樋山の元へ。
「こっちはいいから炯斗は冬沢さんの方見て!」
「悪ぃ、サンキュー」
恵の気遣いに礼を言って、炯斗は携帯のメールを開いた。