空耳此方-ソラミミコナタ-
恵の言葉を否定したのは、樋山だ。
「…手がかりが出てきたとして……すぐに解ける訳ではない」
「?」
「……暗号にも、様々な種類があるということだ。……並び替え(アナグラム)、置換、絵や図がヒントとなるもの……例えば狸があって文章から『た』をとるものなど…だな」
「それが判断出来なきゃヒントの意味がねぇってか」
「……そうだ」
樋山は変わらずの表情のまま、ゆっくり頷いた。
「……だいたい形式からすれば、これらを全て前か後ろに4ずらせばいいだろうがな」
それだけ言うと、樋山は地面の計算を足でざっと消した。
「後は…お前たちの腕次第……」
「んだな。なぁ、あんた暗号とか好きなのか?」
樋山は、質問に驚いたように少し目を見開く。
「……割りと」
「なんだそりゃ。…ま、いいけどなんで尺って思い付いたんだ?」
ああ…、と樋山は荷物をごそごそと探る。
そして出てきたのは一本の縦笛。
「……何それ」
「尺八ですよ、炯斗くん。長さが1尺8寸あるんです」
「尺八だ。センチメートルにすれば、約54.5だ」
「……そ、そうか」
趣味だろうか。
まあ、人のことにどうこう言うことではない。
ヒントになったのだから、有難いと思うべきだ。
とにかく、これで正解に近づいた。
満足気に三人が笑っていると、樋山が立ち上がった。
「…日が傾いてきたから、私は帰る。お前たちも早めに戻るといい」
「ありがとうございます」