空耳此方-ソラミミコナタ-
「高橋さん!」
「やあ。進んでる?」
「詰んだ!!」
「え」
炯斗の元気な返事に、ピシリと音をたて固まる。
しかし、恵はお構い無しに話を進めた。
「そんなことより、犯人の絞りこみ、出来てるんですか?」
「……嫌なこと聞くね」
高橋の反応はどこまでも素直だ。
表情が上手くいっていないと語っている。
「舘見透の線が消えた以上――」
高橋はチラリと恵を見た。
「――他の人間を疑わないといけない。ただ、たった数時間でそう簡単に見つかる訳もなくてね……」
高橋は、天然パーマの髪を掻き乱して手元の書類を見つめた。
高橋の横から言乃がそれを覗き込む。
「ああ…これはこの島の住民の一覧だよ。一人一人のアリバイを確かめて行かないといけないからね」
聞き込みの成果だろうか。手帳と同じように高橋の書き込みがビッシリだ。
【ちょっと見せて頂いて構いませんか?】
「いいよ。こっちの何も書いてない方を見るといい」
「ありがとうございます」
細かく人名が書かれたA4紙を、頭を合わせて見る三人。
「…樋山さんの名前がないんだな」
「彼は本当に居候らしい。数年分の滞在費を先に払って、この花守荘に5年くらい居座ってるんだって」
「……すげえな…」
「全くさ。5年も働かないでどうして払っていけるんだか、僕にはわからないよ」
羨ましいなぁ…としみじみ高橋。
……
炯斗の中で、違和感が走る。
しかしそれは炯斗がはっきりとつかむ前に消えてしまう。
何だ? と炯斗は一人考え込む。
【羽田さんの名前がありますよ】
「それはそうだと思うよことのん…え?」