空耳此方-ソラミミコナタ-
恵の動きがはたと止まる。
一覧の中に、信じられないものを見つけてしまったのだ。
嘘…と言乃を見つめると彼女は、ゆっくりと頷いた。
【デザイナーの学校も通っていたそうです】
「それって……じゃあまさか!?」
だが言乃はまだわからないと首を振る。
「炯斗くんはどう思いますか?」
「え、ごめん。聞いてなかった」
言乃は名簿を炯斗に示した。
しかし炯斗は首をひねるばかり。
疑問符しか浮かんでいない顔を見つめて思い出した。
「そういえば、炯斗くんにはまだ話してませんでしたね」
「そりゃ、わかんねーわ」
炯斗はまた紙を見るフリをして声を潜めた。
「なあ、話したいことがあるんだ。ちょっと上行こうぜ」
「私たちもです。行きましょう」
「高橋さん、この名簿ありがとうございました」
「ああ。何かわかったらまた教えてくれ。いくらでも協力させてもらうよ」
きっと、それはすぐだろう。
なんとなく、三人はそう思って、高橋に心からお礼を言ってその場を後にした。
「おや、探偵さんのお出ましだ」
部屋に向かおうとしたところで、羽田と出くわした。
「こんばんは。これからお出かけですか?」
場所はロビー。
羽田の手には黒く汚れた雑巾とバケツ。
それを手に、エントランスに今出ようとしていたところで三人を見つけ、声をかけた。
「ああ、ちょっとね。毎日の日課なんだ。
朝と夕方。食事の下ごしらえが終わると後はコックの仕事だから、この間に野暮用を済ませるんだ。…じゃあ、失礼するよ。暇とはいえ、遅れたらそれなりに怒られちゃうから」
「…なんだったんだ?」
どちらかといえば、大場や洞窟のある方向に消えた羽田の背中を見送って疑問を浮かべる。
「とりあえず、部屋にいこっか」
「ああ」