空耳此方-ソラミミコナタ-
そして戻った部屋。
中には、椅子にちょこんと座って待つアズサ。
『……お帰りなさい』
流石に幽霊だからか、彼女の顔に泣いた跡はどこにも見られない。
「アズサさん! 悪いけど、事件のことでもう一つ聞きたいことがある。いいか?」
しばらく前に、事件を思い出して泣いた彼女に、また辛いことを思い出させるのは良心が痛む。
しかし、聞かない訳にはいかなかった。
アズサは、少し緊張した面持ちで炯斗を見つめた。
「玲子さんの発作を誘発した食中毒の原因ってなんだったんだ?」
『……樒の実』
「「シキミ?」」
三人の声が合わさる。
聞き慣れない響きは何を表すか。
『仏前に備える木……実も木も、全部に毒があるって聞いた』
「確かにそうです」
携帯ですぐに調べた言乃が先を受け取る。
「仏教でよく使われるそうです。亡くなった方の腐敗臭を消すのなどに使用するとか。
植物で唯一劇物に指定されていて、特に実に毒性が強いらしいです」
画面をスクロールして先に進む。
「それゆえに、『悪しき実』と呼ばれ、呼び名が省略されてシキミに落ち着いたそうです。
その実は、スパイスや中華に使う八角によく似ていて、食中毒事件も多いみたいです」