空耳此方-ソラミミコナタ-
「始めるぜ。
この事件は複数のトラップが仕掛けられた複雑な事件だ」
一度話始めると、水を打ったように静まりかえり、炯斗の声がやけに大きく響いた。
「まず第一のトラップは、踊り場の階の表示だ」
あの美しい装飾の表示。
触ると数字が収納され、別の数字が現れた。
「数字が変わる表示。それを使って犯人は、3階と思わせて克己さんを4階に連れ出した」
「でも…そう簡単にいくかな?」
郁美は首を傾げて言う。
「普通、気が付きそうなものだけど」
「普通はな。だけど、克己さんはそんなに体力がなかったから、どちらにせよ、疲れて気が付かなかったんだ」
「でも――」
「それだけじゃない」
炯斗は少し声を張り上げた。
「1階から2階までは螺旋階段。他の階段も、踊り場が多めの四角い螺旋階段になっている。
人間、ぐるぐる回ってると自分がどこにいるのかわからなくなる。そこをあの表示で誘導ってわけさ」
「……なるほど」
炯斗は皆を見回す。
異論はないようだ。
「次は、その4階の克己さんの部屋だ」