空耳此方-ソラミミコナタ-
「樋山は存在しないってのはちょっと違うか。樋山朝隆は偽名だ。
こいつの本名は――――高山旭。
玲子さんを死に至らしめることとなった植物、樒をアズサさんにスパイスと偽って渡した……張本人だ」
「なにっ!?」
樋山いや、高山と羽田はほぼ同時に顔が青ざめた。
当然だろう。
共犯者が実は家族を奪うきっかけとなった事件の犯人ともなれば。
炯斗はゆっくりと高山を振り返る。
「あんたが教えてくれたんだぜ? もうひとつの謎の解き方を」
「な…んだと?」
「アナグラム――並び替えだよ。それもかなり単純な、な」
ひやまあさたか
たかやまあさひ
閃きさえすれば簡単だ。
「……」
「玲子さんの暗号に比べたらかわいいもんだったぜ。
高山。お前は、15年前に会社の金を横領した。
だがそこで共犯者とトラブルになり、あんたは金を受け取る前に、会社にとって邪魔な玲子さんを殺害した」
玲子がいなくなった以上、島のことについてアズサ一人では負いきれない。
さらに世間の中傷、こんな騒動になった種である島の利権は誰も引き継ぎたがらない。
そしてアズサの名前のまま、島は晴れて何も知らない克己の手へ。
「その後、金を受け取ったあんたは逃亡生活を続け、5年程前にこの島に戻ってきた。
灯台もと暗しだな。あんたの存在はアズサさんの死によってほぼ忘れ去られ、羽田さんはあんたの顔を知らなかった」