空耳此方-ソラミミコナタ-
しかし、拳は来ない。
いつまでも来ない。
く…という小さなうめき声。
思わず顔の前にクロスした腕の隙間から、炯斗は、恐る恐る、目を覗かせた。
「うぉわっ!!」
あとの数センチメートルの所で高山の拳が停止している。
驚いた炯斗はあわてて一歩飛び退いた。
「あなたの言いたいことはよーくわかったわ」
届かない拳は、朋恵に押さえられて、ギリギリと音を立てていた。
「だから……」
フッと朋恵は腕から力を抜く。
拮抗するように力を込めていた高山はバランスを崩して前につんのめった。
「この下衆は私たちが責任を持って……」
突き出されたままの高山の腕を取り、ハッ!!と声を上げると同時に朋恵は高山を投げた。
「ぐがっ、はぁ!!」
「…逮捕するわ」
倒れた男に、高橋が駆け寄る。
「高山旭! 村木玲子殺害容疑及び鹿沢克己殺害に関与した疑いで逮捕す」
る、と言い切る前に高橋の手を払った。
「待てよ…」
ゼイゼイと荒く息をしながら、高山は床から鋭く睨んだ。
「前の事件はもう時効になってんだろうがよ!」
カン!!