空耳此方-ソラミミコナタ-
ガックリ項垂れる炯斗をよそに、波を掻き分けていく船の行く先には、島の影が見えはじめていた。
「あれが…果飲島…」
「カリントウの形してねーかな」
「絶っっ対ないと思う」
普通の顔で普通以上に力の入ったツッコミに炯斗はさらに泣きそうになる。
「恵ちゃんさ、だんだん俺の扱いひどくね?」
「多分……気のせいだよ」
…絶対違うと思います
という言葉を飲みこみ言乃も先を見つめる。
――あそこに、キミさんたちの因縁が……
少しずつ近づく影に息を飲む。
島影が近づくのと同じ速さで、風をすり抜ける晴天のもと、小さな不安が胸中を埋めはじめていた。