何度忘れようとしても
「佐伯くん」

6階、7階と上昇していく数字を眺めている佐伯くんの背中に向かって私は言った。

「ん?なんですか?」

佐伯くんが振り向いた。
その顔を見たら、ああ、とても大切な事を思い出せてよかった、と私は思った。

「おめでとう」

「え?なんで知ってるんですか」

佐伯くんが驚いた、でも嬉しそうな顔をして笑った。

「できる女はなんでも知ってるんだよ」

私も笑った。

エレベーターが16階に着いて私たちはオフィスへ歩いた。

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