何度忘れようとしても
それから私は行った事のない、フランスやドイツの話を聞かせてもらったり、デザートのアイスにシナモンをかけて食べたりして時間はあっという間に過ぎて行った。

気づくと、0時近くなっていて佐伯くんは「じゃあ、また明日」と言って帰って行った。

ひんやりとした玄関で佐伯くんを見送り、部屋に戻ると暖房の暖かさと一緒にスパイスの香りが改めて私を包み込んだ。
まだ明日も明後日も食べられるくらいのスープカレーが残っている。

佐伯くんが言うように悲しいときにもスパイスの効果が効くなら、と思った。
ここのところ繰り返し静かにさざ波のように襲ってきては私を震わせ消えていくこの想いが、酬われたらいいのに。

その夜、スパイスの香りの中で眠る私は珍しく何の夢も見ずに朝まで深い眠りに落ちた。

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