何度忘れようとしても
今までこんな風に何も持たない気持ちで誰かを想った事が、私には無かった。
だから気づくまでにとても時間がかかってしまったのかもしれなかった。

目の前の佐伯くんに私は、何も言う事ができない。

彼の決まった人生に私の入る隙間は無い。

それはとても悲しすぎた。

でも彼を好きという気持ちが私の心を洗うように清らかに流れている事を、私は初めての経験としてとても心地よく感じていたのだ。

それに、気づいてしまった。

それから私たちは無事にすっきりとした倉庫を後にした。
そして、駅まで一緒に帰った。
夜空にはめずらしく綺麗な満月が出て私たちを照らしていた。

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